文章データベース検索の詳細内容
[名言文:人生]
憧憬
内容の最終更新日:2016-04-14
[文章内容]
人生というものは私にとってまったくのところいろんなぎょうさんな言葉から成り立っている。なにしろそういう言葉が心に呼び起こすあの絶大な荘漠たる予感をのぞいたら、私は人生について何一つ知っていなかったのだから。私は、人間から神の如き善良と、身の毛もよだつような邪悪とを期待していた。人生からは、目もさめるような美しさと物凄さとを、期待していた。そうして私の胸は、すべてそういうものに対する欲望でいっばいになっていたのだ。それは広い現実への深い、不安にみちた憧憬である。どんな種類にしろ、ともかく体験というものへの憧憬である。酔いしれるばかりのはなやかな幸福と、いいようもなく、思いも寄らぬほど恐ろしい苦悩に向かっての憧憬である。
[作者]
トーマス・マン
[参照図書]
愛して生きる言葉(芸術生活社)